受賞報告
受賞課題:女性医師活躍の先駆けロールモデルとしての社会的な大きな貢献
瑞友会賞(社会部門)受賞のご挨拶
名古屋市立大学医学部附属東部医療センター 名誉院長
津田 喬子(S44卒)

この度は、名誉ある瑞友会賞(社会部門)を賜り誠に光栄に存じます。瑞友会松本 隆会長をはじめ推薦者、選考委員の皆様に厚く御礼申しあげます。
私は1963年に名市大医学部へ入学しました。前年までの定員40名が60名となり、入学時19名が女性であったために「増員した分、女が来た。」などと言われたものです。卒業時には幾人かの教授からは「女はいらん」とも言われました。専攻したい分野に進むため已む無く名古屋大学等へ移籍された先輩女性もおられました。
卒業の前年(1968年)の医師法の改正によって、医師免許のない身分で卒後1年間実地修練をするという訳の分からない「インターン制度」が廃止され、私たちには卒後直ちに国家試験が実施されました。しかし、提示された「卒後研修制度」は紙に書かれた努力目標であって全く中身を伴わないものでした。
そこで、私たちのクラスのほぼ全員が一丸となって医学部教授会と団体交渉をして、国家試験後に非入局の身分にて市大病院および外の病院において自らが組んだローテーションによって研修することを認めさせました。私たちの「自主研修」はまさに2004年制定の「新医師臨床研修制度」の先駆制度であったと自負しています。折角の教授会が認めた自主研修制度でしたが何故か次の学年(45卒)はそれに加わることは無く、私たちの学年のみで終了してしまいました。他学では同じような独自の卒後研修制度を継続し学外研修病院として今に繋がっていることを見ると残念に思います。
私はその後、名市大、愛知医大および東市民病院にて約40年間、麻酔科医として麻酔管理、痛みの治療、救急医療に従事しました。諸先輩からは日夜厳しい指導を受けました。33歳の時に留学したカナダ・トロント大学医学部麻酔科において、女性医師のキャリア継続への強い意志に接し、男女平等の恵まれた環境における研修経験は、私のキャリア継続への強い推進力となりました。
私が卒業した1969年の女性医師数は約1万人、医師全体の9.3%でした。女子医学生の割合が30%を上回ったのは2000年からです。その後の増加は当然予想されたにも拘わらず、女性医師のキャリア継続の環境整備には長い間手を打たれることはなかったのです。それどころか、女性医師増加が医師不足をもたらし医療崩壊危機を招いたとして、女性をイモ扱いの「掘り起こし」、「眠っている女性医師よ目を覚ませ」と言った差別的な員数合わせで解決しようとする機運がありました。私は機会ある度に、麻酔関連学会を始め全国医学部長病院長会議、日本女医会、日本医師会等において結婚しても安心してキャリアを継続できる最重要の解決策は、医師の研修・勤務に配慮した保育所の整備であることを訴えました(当時の病院保育所は看護師雇用のためであり医師の子は除外)。加えて女性には、男性と平等な立場でキャリアを継続するには「医師」としての矜持を持たなくてはならないと伝えてきました。そのような活動が評価されて2005年に(現公益社団法人)日本女医会の「吉岡弥生賞」を受賞しました。また、同年に「女性医師からのメッセージ-医系キャリアアップの道しるべ-」(真興交易医書出版部刊)を執筆・監修しました。
近年、日本女性の活躍の場は広がりつつあるとは言え、未だ持てる能力を発揮するに「充分な環境」とは言えません。瑞友会賞の受賞を励みにして、今後も女性が活躍ができる環境の構築に役立つことができればと思っています。
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- 1969年
- 名古屋市立大学医学部卒業
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- 1970年
- 名古屋市立大学医学部麻酔学助手
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- 1975年
- 愛知医科大学麻酔学助手
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- 1977年
- カナダ・トロント大学医学部麻酔科留学
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- 1982年
- 名古屋市立大学医学部麻酔・蘇生学講師
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- 1984年
- 同上 助教授(2007年准教授)
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- 2007年
- 名古屋市立東市民病院副院長・麻酔科部長
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- 2008年
- 名古屋市立東部医療センター東市民病院センター長・病院長
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- 2010年
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名古屋市立東部医療センター名誉院長
(現・名古屋市立大学医学部附属東部医療センター)
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- 2010年
- 日本女医会会長
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- 2012年
- 全国医学部長病院長会議男女共同参画推進委員会委員長
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- 2018年
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2005年日本国際博覧会記念災害救急医療研究財団理事
東洋医学研究財団評議員
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- 2020年
- 医療政策を提言する女性医師の会監事
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- 2023年
- 名古屋市立大学交流会会長
- 津田喬子氏 授賞理由
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昭和44年に本学を卒業後、麻酔学教室(現麻酔科学・集中治療医学分野)へ入局、愛知医科大学麻酔科、トロント大学麻酔科留学を経て昭和57年に本学麻酔科へ復帰以降は大学スタッフとして活躍され、当時から女性医師のロールモデルとして先駆的に貢献されてきました。平成17年にはそれまでの女性医師としての功績により日本女医会吉岡弥生賞を受賞されています。平成20年には東部医療センター東市民病院センター長・病院長を務められました。また平成24年に日本女医会会長として公益社団法人化を実現、さらに、全国医学部長病院長会議男女共同参画推進委員会委員長、日本医師会男女共同参画委員会委員、日本ペインクリニック学会男女共同参画推進WG長を歴任され、女性医師支援のみならず女性医師自身の医師としての自覚の重要性を明言され、真の男女平等参画の推進に尽力されました。現在は、名古屋市立大学交流会会長としてもご活躍であります。