受賞報告
受賞課題:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する感染防止対策と診療への貢献
瑞友会賞(特別賞)受賞のご挨拶
感染症・総合内科部長
長谷川 千尋(H2卒)
この度の瑞友会賞(特別賞)の受賞にあたり、松本会長をはじめ顕彰委員会および瑞友会のすべての会員の皆様に感謝いたします。
私は2009年に消化器内科副部長として東市民病院(現名古屋市立大学医学部附属東部医療センター)に赴任しました。そして翌年にマラリア等国内では稀少な感染症の診療にあたる熱帯病治療薬研究班の仕事を受け継ぎ、感染症科部長を兼任することとなりました。当時の東市民病院にはインバウンドおよびアウトバウンドの増加に伴い帰国後に体調不良を訴える患者さんの診察依頼が増加していました。一方で消化器内科はアメーバやサナダムシのように寄生虫を扱う機会が他科より多い診療科ともいえます。感染症科というと一般的にはICT活動やAST活動、また院内の感染症疾患のコンサルトが診療の中心ですが、上記の理由から私の感染症科としての専門(趣味?)は徐々に一般の病院では診療が困難な輸入感染症・寄生虫症といった国内稀少感染症になっていきました。
輸入感染症のなかでもマラリアはデング熱や腸チフスといった他の発熱性疾患との鑑別が重要な疾患で、治療が遅れると致死的になることがあります。マラリアが疑われる患者さんをすぐに東市民病院に送っていただけるように市内・市外の病院や医師会等の講演を通じて地道な広報活動を行いました。次第に認知度が上がっていき愛知県内の4大学病院だけではなく県外の大学病院や病院・クリニックからもご紹介いただくようになりました。時にはシャーガス病やリーシュマニア、ビルハルツ住血吸虫、(輸入感染症でも寄生虫症でもありませんが)ハンセン病疑いの患者さんのように成書でしか見たことのない感染症の診察依頼もありますが、国内や時には海外の先生がたにもご相談させていただき現在日本で可能なエビデンスレベルの高い診療が提供できるよう心がけてきました。
そんな中2019年の暮れに中国で原因不明の肺炎が報告されました。年が明けて1月7日には肺炎の原因がコロナウイルスであることが判明。春節祭をひかえ日本にもその感染症が入ってくる可能性が高いことから同日より対策を講じることとなりました。2月14日のダイヤモンドプリンセス号の患者さんの受け入れと同じころ名古屋市は全国に先駆けてスポーツジムと高齢者施設を中心に感染者が増加しました。東部医療センターは第二種感染症医療機関として当初より多くの患者さんを受け入れ、3月初旬には全国でも有数COVID-19受け入れ病院となりました。以降3年間でおよそ1600名の入院患者さんの治療にあたり、COVID-19のハイボリュームセンターとして患者さんや職員のみなさまのご協力のもと各種治療薬の治験やワクチン接種後の抗体価の推移、病勢の増悪を予想するための血液マーカーの探索など多くの研究も行いました。
COVID-19は感染症のパンデミックというだけでなく世界を巻き込んだ災害とも言えます。未知の感染症に対して医療に関わる全てのかたがたはそれぞれの立場で多大なご苦労をされたことと思います。しかしCOVID-19のパンデミックの経験は決して無駄ではありません。私自身もこの経験を活かしみどり市民病院が名古屋市立大学医学部附属病院群の1病院として誇れる病院になるよう努めてまいります。
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- 1990年
- 名古屋市立大学医学部医学科卒業
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- 1990年
- 刈谷豊田総合病院臨床研修医
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- 1991年
- 刈谷豊田総合病院内科医員
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- 1995年
- 名古屋市立大学医学部第1内科臨床研究医
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- 1997年
- 中日病院内科医員
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- 1999年
- 足助病院消化器科医長
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- 2002年
- 足助病院消化器科部長
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- 2009年
- 東市民病院(現名古屋市立大学医学部附属東部 医療センター)消化器内科副部長
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- 2010年
- 同感染症科部長兼務
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- 2013年
- 同消化器内科部長兼務
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- 2016年
- 感染症センター長兼務
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- 2022年
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高次ウイルスセンター副センター長兼務
名古屋市立大学大学院医学研究科
臨床感染制御学講座 教授(臨床担当)
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- 2023年
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名古屋市立大学医学部附属みどり市民病院
感染症・総合内科部長 副院長
- 長谷川千尋氏 授賞理由
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平成2年本学卒。わが国の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は令和2年2月3日に横浜港に停泊したクルーズ船、ダイヤモンドプリンセス号内での発生に端を発し同年4月7日には緊急事態宣言が発表された。東部医療センターでは長谷川感染症センター長の指導の下、愛知県内で最初にクルーズ船の乗客1名を2月14日に受け入れた。それ以降現在まで8回におよぶCOVID-19の感染拡大が到来したが、長谷川医師は病院内感染防止対策を推進するとともに県内で発生した患者の治療に陣頭指揮を執り、令和5年4月までの3年3ヵ月間に延べ1777名の患者の治療を行った。このような長谷川医師の臨床的、社会的貢献は、瑞友会賞(特別賞)受賞者に相応しい。