受賞報告
受賞課題:深夜の繁華街における思春期保健活動
瑞友会賞(社会部門)受賞のご挨拶
少年支援保健委員会・Public Health(NGO)
田中 勤(H10卒)
この度は、名古屋市立大学医学部瑞友会賞(社会部門)をいただき身に余る光栄に存じます。瑞友会会長・松本隆先生をはじめご選考いただきました瑞友会の先生方に厚く御礼を申し上げます。また、学部生時代から常に温かく見守ってくださった公衆衛生学教室の恩師の徳留信寛さん(師弟間の慣例で「さん」と呼びます)、およびいままでにご指導賜りました名古屋市立大学の諸先生方、私の活動について応援してくださった皆様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
私は1998年3月に名古屋市立大学医学部を卒業し、現在は総合病院南生協病院産婦人科で外来診療に従事し、名古屋市立中央看護専門学校などで非常勤講師(公衆衛生学など担当)、同朋大学客員准教授なども併任しております。今回の受賞に関連した私の活動の背景は、20年以上前に婦人科思春期外来の診察室で出会った一人の患者にあります。未成年の彼女は月経困難症で受診に来たのですが、私の前で震えています。実は、彼女は違法風俗店にスカウトされ、覚せい剤漬けにされて仕事を続けていました。そんな状態でも将来の夢を語ってくれます。月経困難症についてはまず鎮痛剤を処方しましたが、心配な様子だったので1週間後に受診をと約束しました。しかし、その後の診察に来ることはなく、連絡も取れず行方不明となりました。この時、私は診察室で待っているだけではいけないのだと強く感じ、何ができるかと思い悩みました。それから何年か経って、名市大の公衆衛生学教室に戻りました。久しぶりの大学の空気は私に勇気を与えました。そして、いよいよ夜の街に出て思春期のこどもたちの声を直接聴き、その声やありのままの姿を社会に届けようという、研究調査と支援をセットにした活動2007年9月から開始しました。最初の1か月は一人で始めたのですが、徳留さんが医学生も連れていってくれということで、医学生の福島一彰さん(2011年卒。現在は東京都立駒込病院感染症科医師)が半年間参加してくれました。また、古橋忠晃さん(1999年卒。現在は名古屋大学精神健康医学分野准教授)からは研究論文にまとめるための学術的指導をしてもらっています。さらに看護師、学生、社会人メンバーが交替で活動に参加しています。活動を始めたばかりの頃の日本経済は不景気に見舞われ、こどもたちへの影響も並々ならぬ状況で、夜の街には援助交際や風俗店からの搾取など、厳しい環境に向き合う少女たちに出会いました。その後、社会経済状況は改善の兆しがみられるようになったものの、夜の街で大人たちからの搾取に遭っているこどもたちや、家庭や学校などの「いま」と自分自身の「未来」と葛藤するこどもたちは変わらず存在しています。そんななかで、思い悩みながらも、次に進んでいくこどもたちの姿をみることもでき、対話を続けながら、こどもたちのそのままを受け止めることの大切さを私たち自身も学んでいます。そして、学部生時代に受けた公衆衛生学講義での「医師は人々の健康の代弁者だ」という教えは今も胸に刻まれており、すべては名市大に入学した時から始まっていました。
今回の瑞友会賞受賞は、大切な母校に入学した31年前の初心に帰れという原点回帰のメッセージと受け止めています。地味な活動ではありますが、この受賞を機にいっそう奮励努力してまいりたいと思います。今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
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- 1998年
- 名古屋市立大学医学部医学科卒業
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- 1998年
- 医籍登録。愛知民医連研修医(主に南生協病院に勤務)。名古屋第一赤十字病院、南生協病院、堀尾安城病院産婦人科を経て、2006年4月より南生協病院産婦人科非常勤医師(現在に至る)
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- 2005年
- 名古屋市立大学大学院医学研究科研究員(公衆衛生学教室)
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- 2006年
- 慶應義塾大学法学部法律学科(通信教育課程)卒業
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- 2006年
- 名古屋市立大学大学院医学研究科博士課程 社会医学専攻入学(公衆衛生学教室)
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- 2007年
- 深夜の街における思春期世代の調査活動開始(2009年よりサークルとして「少年支援保健委員会・Public Health(NGO)」を組織。現在に至る)
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- 2008年10月
- 名鉄看護専門学校、名古屋市立中央看護専門学校、愛生会看護専門学校、愛知保健看護大学校などで非常勤講師(「公衆衛生学」など担当)
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- 2010年
- 名古屋市立大学大学院医学研究科博士課程 満期退学
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- 2012年
- 中京大学大学院法学研究科修士課程修了。修士(法学)
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- 2012年
- 名古屋女子大学短期大学部非常勤講師(「身体のしくみと働き」担当。2022年3月まで)
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- 2014年
- 中京学院大学看護学部非常勤講師(「疾病治療学Ⅱ」担当。2023年3月まで)
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- 2018年
- 同朋大学社会福祉学部客員准教授(「人体の構造と機能及び疾病」など担当。現在に至る)
- 田中 勤氏 授賞理由
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平成10年に本学を卒業、公衆衛生学教室、また産婦人科医として活躍され、法学修士も取得されている。2007年9月より、名古屋市の栄地区を中心とする深夜の繁華街において、思春期年代の聴き取り調査・見守り活動を週1回のペースで継続してきました。この活動は、看護師などの社会人メンバーも参加し、深夜の街にいるこどもたちと話をし、寄り添い、彼らの代弁者として彼らのありのままの姿や声を社会に届けることを目的とするものです。現場で出会ったこどもたちについて、すでにCase series論文の形で報告され、思春期保健の活動として認知されるようになっています。地道な活動を通して若者の心に寄り添ってきたことに対して、瑞友会賞社会部門受賞として相応しいと判断します。