受賞報告
受賞課題:難治性喘息の病態におけるカプサイシン咳感受性の意義
瑞友会賞(学術部門)受賞のご挨拶
助教 金光 禎寛(かねみつ よしひろ)(教室会員)
同窓会の諸先生方におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。初めてご挨拶させていただきます。呼吸器・免疫アレルギー内科学の金光禎寛と申します。この度、2021年度瑞友会賞を受賞いたしましたのでご報告いたします。私は2004年に川崎医科大学を卒業後、大阪市立大学医学部附属病院、大阪厚生年金病院で初期研修、京都市立病院で後期研修を修了、高槻赤十字病院に呼吸器科医員として2年間赴任したのちに2011年4月に京都大学大学院医学部医学研究科に入学いたしました。当科新実彰男教授のご指導の下、喘息・慢性咳嗽の臨床研究に従事し、2015年3月に京都大学で博士号を取得し、2015年に本学に着任、現在に至ります。本学に着任後も喘息・慢性咳嗽の研究に従事し、2019年10月から2020年7月までUniversity of Manchester Cough Researchに留学する機会をいただきました。また、高度医療教育研究センター鈴木元彦教授、次世代医療開発学神谷武教授、機能組織学鵜川眞也教授、植田高史准教授にご指導いただき、喘息が及ぼす鼻副鼻腔、消化器疾患の病態への影響や基礎の視点からClinical Questionを検証することを大学院生とともに行っております。
喘息は気道の慢性炎症を本態とし、気道過敏性の亢進により変動性を持った喘鳴、咳、呼吸困難の臨床症状を呈する疾患群であり、背景因子や特徴的な臨床像に基づいてさまざまなフェノタイプに分類されます。気道炎症を反映するバイオマーカーは喘息のフェノタイプを決定する重要な因子の1つであり、末梢血好酸球数、血清総IgE値、呼気一酸化窒素濃度はアレルギー性/Th2性気道炎症を反映するバイオマーカーとして、吸入ステロイド治療の反応性予測、抗体治療の導入や有用性の予測に日常臨床で利用されていますが、非アレルギー性/非Th2性気道炎症を反映するバイオマーカーについては確立されてないのが現状です。私は気道の求心性知覚神経終末に発現しているイオンチャネルであるTransient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)と喘息の関連に着目して臨床研究を続けてきました。近年、喘息患者(特に非アレルギー性)で有意にTRPV1アゴニストであるカプサイシンに対する咳感受性が亢進していることが報告され、咳感受性の亢進は気道炎症とともに喘息の難治化の要因に関与していることが言われています。カプサイシン咳感受性の亢進が喘息、特に非アレルギー性/非Th2性気道炎症フェノタイプの喘息患者の治療標的になる、という仮説を立て、長時間作用型抗コリン薬や気管支熱形成術がカプサイシン咳感受性の改善を介して難治例の喘息コントロールを改善させることを報告し(Fukumitsu K,Kanemitsu Y (責任著者), Niimi A, et al. J Allergy Clin Immunol in pract 2018.、Kanemitsu Y, Niimi A,et al. Ann Intern Med 2018.)、カプサイシン咳感受性亢進が非アレルギー性喘息患者の喘息コントロール不良や頻回増悪に関連することを示しました(Kanemitsu Y, Niimi A, et al. Am J Respir Crit Care Med 2020)。これらの研究を通して、カプサイシン咳感受性が非アレルギー性/非Th2性気道炎症フェノタイプ喘息の治療標的になる可能性を世界で初めて示すことができたと考えております。現在も気道炎症細胞におけるTRPV1発現と喘息の病態、喘息患者におけるカプサイシン咳感受性亢進に影響する併存疾患について検討を行っております。
まだまだ経験不足の面もありますが、諸先生方のご指導の下、本学の発展に微力ながら貢献できればと考えております。若輩者ではありますが、今後ともご指導、ご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
-
- 2004年
- 川崎医科大学卒業
-
- 2004年4月
- 大阪市立大学医学部附属病院(初期研修医)
-
- 2005年4月
- 大阪厚生年金病院(初期研修医)
-
- 2006年4月
- 京都市立病院(専攻医)
-
- 2009年4月
- 高槻赤十字病院(呼吸器科医師)
-
- 2011年4月
- 名古屋市立大学呼吸器・免疫アレルギー内科学 助教
-
- 2019年10月
- University of Manchester, Cough Research
-
- 2021年10月
- 名古屋市立大学呼吸器・免疫アレルギー内科 助教
- 金光禎寛氏 授賞理由
-
金光氏は2015年に本学に着任後、喘息・慢性咳嗽の臨床研究において、カプサイシン咳感受性の亢進が喘息の病態に関与し、さらに難治性の非アレルギー性/非Th2性気道炎症例において、長時間作用型抗コリン薬や気管支熱形成術によってカプサイシン咳感受性が改善されることを見出した。カプサイシン咳感受性亢進と非アレルギー性喘息患者の症状増悪との関連から、難治性の非アレルギー性/非Th2性気道炎症の治療の道を開いたことは意義深い。