受賞報告
受賞課題:子宮内膜機能に着目した不育症の新規治療戦略に向けた研究
瑞友会賞(学術部門)受賞のご挨拶
助教 後藤 志信(ごとう しのぶ)(教室会員)
この度は大変栄誉ある名古屋市立大学瑞友会賞(学術部門)をいただき身に余る光栄に存じます。瑞友会会長の山本喜通先生をはじめご選考いただきました瑞友会の先生方に厚く御礼を申し上げます。また、名古屋市立大学産科婦人科学 杉浦真弓教授、名古屋市立大学医学部附属西部医療センター産婦人科 尾崎康彦教授をはじめ、これまでご指導賜りました諸先生方にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
私は2005年に京都府立医科大学を卒業後、生まれ育った愛知県で医療に貢献したいと思い愛知厚生連海南病院での初期研修、産婦人科での後期研修を経て本学大学院に入学しました。私たちの所属する産科婦人科学教室は、1980年代より諸先輩方が不育症の診療・研究を継続的に行ってこられ、世界の不育症研究をリードしてきた先駆的存在です。大学院では当教室の伝統である不育症の研究テーマをいただき、妊娠時に子宮内膜が変化した組織である子宮脱落膜中のマクロファージが産生する蛋白分解酵素(プロテアーゼ)の一つ、カテプシンEの産生が原因不明不育症患者では低下しているということを報告しました。流産や死産の理由を探るということは裏を返せば、妊娠が維持される仕組みを解き明かすということでもあります。大学院での研究活動を通して、生命が誕生するまでにはこれほどまでに巧妙な免疫学的・生化学的・解剖学的・生理学的な仕組みがあるということに感嘆し、研究の魅力にはまり学位取得後も助教として研究活動を継続させていただくこととなりました。2016年にはノーベル医学生理学賞の選考委員会がある、スウェーデン カロリンスカ研究所へ留学の機会をいただき様々な貴重な経験をさせて頂きました。
受賞対象となりました研究課題は、子宮内膜及び脱落膜の機能に焦点をあて、妊娠維持に重要な役割を果たすサイトカインやプロテアーゼに注目し原因不明不育症の病態機序の解明を目指すというものです。胎盤の初期組織である絨毛の母体組織への浸潤や血管新生は、癌の浸潤と同様にプロテアーゼとその内因性インヒビターの働きにより調節されていることが明らかとなってきました。また、母体にとって一種の移植片である胎児は移植免疫や癌免疫と同様に様々なサイトカインや免疫担当細胞の働きで許容されていることが報告されており、そこでの知見を応用しながら引き続き不育症の病態解明を目指したいと思います。
近年の少子高齢化社会において、不育症・不妊症対策の社会的重要度は増しておりそれに対する医学的責任も重大であります。生殖補助技術(Assisted Reproductive Technology, ART)の進歩は目覚ましいものの、着床期から妊娠ごく初期の妊娠維持機構は今なお残されたブラックボックスであり、この一端を解き明かすことが現状を突破する鍵になるのではと思っています。
現在は名古屋市立大学産科婦人科学・臨床遺伝医療部にて、不育症の診療・研究のみならずハイリスク妊娠の周産期管理や出生前遺伝学的検査などに従事させていただいております。今後とも微力ながら、医学の進歩発展に貢献できるよう日々精進してまいりたいと思います。
改めてこれまでご指導いただきました杉浦教授、尾崎教授をはじめ産科婦人科学教室の諸先輩方、同僚の先生方・スタッフの皆様、留学先でお世話になりました国内外の先生方、研究者の方々に深く御礼を申し上げます。
今後ともご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
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- 2005年
- 京都府立医科大学医学部卒業
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- 2005年
- 愛知厚生連海南病院初期研修医
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- 2007年
- 愛知厚生連海南病院産婦人科医員
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- 2010年
- 名古屋市立大学大学院医学系研究科産科婦人科学入学
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- 2014年
- 名古屋市立大学産婦人科 助教
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- 2016年
- カロリンスカ研究所(スウェーデン)博士研究員
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- 2019年~
- 名古屋市立大学産婦人科 助教
- 後藤志信氏 授賞理由
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不育症は繰り返す流産・死産により生児を得られない病態であり、その97%は有効治療法がなく、病態解明及び新規治療戦略の開発が急務である。後藤氏は子宮内膜及び脱落膜の機能に焦点を当て不育症の病態機序の解明を目指している。不育症研究センターのバイオバンク検体を用い脱落膜組織における様々なサイトカインやプロテアーゼの発現を解析し原因不明不育症患者の病態機序についての新たな知見を得て新規治療戦略の開発を実施している。