受賞報告

<瑞友会賞 社会部門>
受賞課題:各種肝炎ウイルス、COVID-19などウイルス感染症の診断・治療からゲノム治療まで、日本の医療に変革をもたらす原動力となる研究

2021年度瑞友会賞拝受の御礼

[更新日:2021年11月16日/掲載日:2021年11月16日]
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター
ゲノム医科学プロジェクト長
溝上 雅史(みぞかみ まさし)(S51卒)
溝上雅史

私は1970年に名古屋市立大学医学部に入学しました。学生時代には、私の中学時代にWatson & Crickの二重螺旋がノーベル賞を貰ったこともあり、各講義でチラチラ出てくる遺伝子の講義には興味を持ちましたし、自分でも本を読みました。しかし、基本的に医学生時代は準硬式野球部に熱中し第一期黄金時代を築いたと自負していますし、将来研究をしようとは全く思っていませんでした。

1976年に卒業し、第二内科に入局し、大学病院で研修後、1978年社会保険中京病院消化器内科に赴任しました。当時の中京病院は重傷火傷患者を多数扱っていましたが、治療として輸血をすると患者は当然のごとく非A非B型肝炎やB型肝炎や劇症肝炎が、さらに職員にも急性肝炎や劇症肝炎が多発していました。そのような時に私が赴任したので、当時の加納秀行消化器内科部長から肝炎対策をやってくれ、さらにそれを君の博士号の論文のネタに使用するようにといわれ、患者血清や臨床データの取集とその感染予防対策を確立し、職員感染を減少させる成果を挙げることが出来ました。

1981年に大学に帰局後、犬山の京大霊長研で、アメリカから日本版の遺伝子database(DDBJ)を作るために帰国したばかりの三島の国立遺伝学研究所(遺伝研)の五條堀孝助手と知り合い、故木村資生先生の中立説に基づく分子進化学的各種遺伝子解析法を学び、それらの手法を大学や中京病院で集めた臨床データ付きのHBV検体に応用することで研究を開始しました。

その結果、折戸悦朗先生(S53卒)が国際的遺伝子databaseであるDDBJ/GeneBank/EMBLを駆使し、HBVの進化と遺伝子型(Genotype)の存在をPNASに発表し、さらに日本には2つの異なGenotypeが存在し、Genotypeにより発がん率が異なることも明らかにしました。この報告には世界からreprintの請求が殺到しました。そこで、reprintを送るときに貴方の国の検体を集め持って日本に来てくれればその費用は持つし、一緒に共同研究が出来ると書き加えましたところ、共同研究のproposalが殺到しました。うれしい悲鳴でしたが、その費用捻出のために種々の国際協力の研究費proposalを毎日書いていました。その主なproposal先が外務省、文部科学省、厚生労働省、JICAであり、そのJICAから紹介されたのが現在の国立国際医療センターでした。

その後、1987年世界的に肝臓の臨床や研究で有名な英国LondonのKing's College HospitalのLiver unitに留学する機会を得ました。そこには日本では見たこともない症例が多数ありましたし、世界的に有名な研究者と知り合いになることができましたし、ここでも検体を集めることができました。

1998年にHCVの遺伝子の一部が発見されました。その後世界各地からHCVの遺伝子が多数報告されたので、それらのHCVの遺伝子配列を使用し、HCVは感染後約30年で肝がんに進展することを明らかにしました。この事実は、日本では1945年頃から戦争や敗戦に伴う社会的混乱でHCVが拡散したことを示し1975年頃からのHCV肝がんの急増に繋がっていることを明確にしました。また、今後10-20年後には世界中でHCVによる肝がんが急増すること、その予防や治療の緊急性を、2020年度のノーベル賞を受賞したNIH のDr. Alter HJとの共同研究で明らかにしました。彼は2020年のノーベル賞受賞講演で私の名前を挙げ我々のDataを明確に述べてくれました。

一方、これらの経緯から米国で開発されたHCV増殖抑制剤の本邦での臨床開発治験を主導することになり100%の治癒率を示しました。現在その成果は世界における各種HCV治療ガイドライン引用され、現実の臨床で大きな成果を挙げていますし、今後世界的に肝がんの大幅な減少が予測されています。

2015年からは臨床ゲノム情報統合データベース(Medical genomics Japan database;MGeND)開発に携わり、2020年には完成させることができました。

昨年からは国難ともいえるCOVID-19の研究で、その重症化予測因子としてのCCL17とIFN-λ3の臨床的有用性を見出し、直ちに保険採用され社会に還元されています。今後、さらにCOVID-19の克服のため研究に邁進したいと思っています。

以上の私の経歴に対し、2021年度瑞友会賞をいただけることになり、名古屋市立大学医学部の卒業生として誠に光栄と思い、そのお礼を述べさせていただきました。

最後に今後の名古屋市立大学大学院医学研究科の益々のご発展を祈念しています。

略歴
  1. 1976年
    名古屋市立大学医学部卒業
  2. 1978年
    社会保険 中京病院 消化器科 勤務
  3. 1987年
    英国 King's College Hospital, Liver Unit留学
  4. 2000年
    名古屋市立大学医学部 臨床検査医学教授
  5. 2001年
    公立大学法人 名古屋市立大学大学院 医学研究科 臨床分子情報医学分野教授
  6. 2008年
    国立国際医療センター 肝炎・免疫研究センター長
  7. 2010年
    独立行政法人 国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター長
  8. 2016年
    国立研究開発法人 国立国際医療研究センター ゲノム医科学プロジェクト長
溝上雅史氏 授賞理由

本学医学研究科臨床分子情報医学分野教授時の肝炎ウイルス研究が認められ、国立国際医療センター 肝炎・免疫研究センターのセンター長に招聘された。肝炎ウイルスの研究とくにC型肝炎ウイルスの治癒薬の開発・実用化に貢献した。2016年にゲノム医科学プロジェクト長として臨床情報付きHuman Genome Databaseの開発・実用化のAll Japan Teamを統率し、成果は2021年に国家事業のヒトゲノム医療の目途をつけた。

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