受賞報告

<瑞友会賞 臨床賞部門>
受賞課題:シロリムス溶出性ステントの冠動脈再狭窄に対する有用性

瑞友会賞(臨床賞)受賞のご挨拶

[更新日:2020年11月25日/掲載日:2020年11月25日]
豊川市民病院 循環器内科、救急科診療部長
鈴木 健(すずき たけし)(H3卒)
鈴木 健

この度は名誉ある瑞友会賞をいただき、ありがとうございます。私は豊橋ハートセンターの鈴木孝彦先生の紹介で1999年から2001年にかけてアメリカのスタンフォード大学の動物実験施設に留学させていただく機会があり、当時豚の冠動脈を用いて実験した冠動脈用のシロリムス溶出ステント実験結果をまとめた論文を今回評価していただきました。

私が実験していたCypherステント(シロリムス溶出ステント)は2004年8月に日本で保険償還となり、当時日本で臨床に戻った私は期待を込めて私どもの症例に使用したことが思い出されます。当時薬剤溶出性ステント(Cypher)導入前は遠隔期(治療後半年から1年後)に認めた金属ステント(ベアメタルステント)の再狭窄率は20-30%程度でしたが、Cypherの導入により、10%以下と画期的に減少し、患者様にも再発がないことを大変よく喜んでいただいたのを思い出します。ただ、当時はポリマーを金属に貼る技術が低く、また、ポリマーもdrug to polymer ratioの低い、薬剤を乗せる能力の低いポリマーしか使用できなかったので、薄いコバルト合金ではなく、厚いステンレスに厚いポリマーを貼ったためにステントが厚くなってしまい、厚みのあるステントを植え込んだことによる乱流が冠動脈内で生じたことによる亜急性冠閉塞の合併症が、当院でも年間に1%程度起きておりました。しかし、現在はポリマーの改良により、ポリマーが薄くなったばかりでなく、生体適合性も増し、さらに薄いステントにポリマーを貼る技術も発達し、最近当院でも急性期に患者の病変の問題により急性冠閉塞を経験することはありますが、ステントやポリマーの問題による亜急性冠閉塞を経験することはなくなり、その後の技術革新を享受するとともに、それらの改良型の第3世代の薬剤溶出性ステントにより、再狭窄率も5%未満と大変良好な遠隔期の成績を経験しております。

豊川市民病院に2001年4月に戻ってからは、松本先生の基、救急医療の分野や研修医の教育の分野にも注力しており、松本先生が院長になられてからは、救急科の責任者や、キャリア支援センターの責任者もしております。臨床成績を基に論文を書くような仕事からは遠ざかりつつありますが、現在は臨床の技術を後輩たちに伝えるとともに、蓄積した当院のカテーテル関係のデータベースを基に、後輩たちが良い臨床研究をできるよう、今後もバックアップをしていきたいと考えております。

また、私共は以前、冠動脈のカテーテル治療のみを専門としておりましたが、2013年より東部医療センターの循環器の先生方のサポートの基、不整脈に対するカテーテルアブレーションも当院で開始しました。2013年手技を開始した当時は術後の心タンポナーデが起こったり、術後に大腿部の穿刺部によく出血したりと、合併症に悩んだ時期もございましたが、現在は遠隔期成績も安定し、合併症もほぼ経験することなく、安定して治療にあたることができるようになりました。今後も名市大の関連の先生のご協力の基、より高度な治療を患者様に提供できるよう、努力していただきたいと思いますので、今後もご指導ご鞭撻のほどお願いいたします。

鈴木 健氏 授賞理由

冠動脈狭窄症の治療において、ステント挿入に続発する血栓症に対するシロリムス(胞分裂に関与する蛋白の働きを阻害する抗生物質、別名ラパマイシン)溶出性ステントの抑制効果について検討した。その結果、シロリムスが一定量以上のレベルにおいて、新生血管内膜増殖の抑制および抗炎症作用が誘導されることを明らかにした。ブタモデルにおいて、シロリムスは冠動脈の再生血管内膜の平滑筋細胞を減少させ、フィブリン量は増加なせる等によって新生血管内膜の成熟遅延がおこり、狭窄を予防することを見出した。この成果はシロリムス溶出性ステントの2004年の保険収載における重要な基礎論文となった。

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