受賞報告
受賞課題:脳神経疾患の画像バイオマーカー開発と臨床応用
「瑞友会賞・学術賞部門」受賞のご挨拶
打田佑人(うちだ ゆうと)(H21卒)
この度は、栄誉ある瑞友会賞(学術部門賞)にご選出頂き、身に余る光栄に存じます。山本会長をはじめ瑞友会の先生方、これまでの研究をご指導頂きました先生方に厚く御礼申し上げます。
受賞の対象となりました研究テーマであります「脳神経疾患の画像バイオマーカー開発と臨床応用」に関して、概要に触れたいと思います。
脳神経疾患は、診断に難渋することが少なくありません。神経内科学教室を開講された先代の小鹿幸生教授、現在の松川則之教授より、患者様の訴えに真摯に耳を傾けること(問診)、全身の丁寧な診察(神経学的所見)を実践することの大切さを医学生の頃より学んできました。神経機能解剖学に基づいて病巣を決定することが、脳神経疾患の診断には必須の道筋と言えます。
神経症候学の位置付けが不変である一方、画像診断学は、昨今の診断装置の発展と共にますます重要性が増しています。臨床における補助診断としての役割のみならず、新規治療薬の客観的指標として用いられる画像バイオマーカーとしての位置付けが確立されてきました。当教室は開講以来、脳神経疾患の中でも特にアルツハイマー病の病態解明と創薬を目指して基礎研究を継続しています。私は大学院に入学後より、アルツハイマー病を始めとした神経変性疾患の新たな画像バイオマーカーの開発を目指して脳画像研究に一貫して取り組んでおり、修了後もその実用化を目指して研究を進めているところです。
現在は、関連施設である豊川市民病院で臨床と画像研究に従事しています。豊川市民病院の認知症外来は、恩師である継泰城先生が2007年に立ち上げたもので、10年以上に及ぶ豊富な臨床画像データを蓄積しています。特にMRI装置は最新の機器を導入し、画像処理法の開発や人工知能の医療応用に向けた取り組みを始めています。撮像した脳MRIを患者様の直接的な利益のために利用(一次利用)し、大量に蓄積された医療画像データを将来の患者様のために役立てたい(二次利用)と考えるのは自然の成り行きと言えます。
脳MRIは、1枚の画像におおよそ1メガピクセル分の情報量が含まれています。人工知能を用いて貴重な症例の数々からなるビッグデータ解析を支える基盤技術としては、画像データの構造化が必要です。脳MRIを構造化する革新的手法には、ジョンズホプキンズ大学が開発したマルチアトラス法を用いて脳構造を精緻に同定する方法があります。本手法により個々の脳は約300の領域に細分化され、各領域の体積・形態・輝度などの情報を抽出することで、脳画像を神経機能解剖に関連付けた意味情報として構造化できます。私は、2021年度よりジョンズホプキンズ大学MRI研究室に留学する承諾を得ております(コロナ禍に伴い、本稿執筆段階では延期の可能性あり)。留学先研究室で繰り広げられる世界最先端の研究手法を学び、神経機能解剖学をどこまで再現できるかに注力して、形態学的評価にとどまらない画像バイオマーカー研究を深めて参ります。
最後になりましたが、いつも研究を支えてくれる方々にこの場をお借りして感謝の意を表したいと思います。松川教授を始めとした名古屋市立大学神経内科学の諸先生方、リハビリテーション医学の植木美乃教授にはいつも温かい激励を受けております。また、豊川市民病院の諸先生方、放射線技師、臨床心理士、リハビリテーション部、倫理委員会等を設置頂く事務の方々、そして患者様に心から感謝申し上げます。
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- 2009年
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名古屋市立大学医学部卒業
安城更生病院/名古屋市立大学初期研修医
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- 2011年
- 公立陶生病院脳神経内科医員
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- 2014年
- 豊川市民病院脳神経内科医員
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- 2016年
- 名古屋市立大学病院脳神経内科臨床研究医
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- 2020年
- 名古屋市立大学大学院医学研究科博士課程修了
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- 2020年
- 豊川市民病院脳神経内科医長
- 打田佑人氏 授賞理由
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認知症克服医薬の開発には、早期診断と治療効果を正確に評価できる客観的指標が不可欠であり、それには画像バイオマーカーの実用化が必須である。磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging, MRI)の画像処理において、脳神経疾患の背景病理変化を捉える技術を発展させ、血液脳関門機能の画像化(Neurology 2020, IF8.689)、定量的磁化率画像のパーキンソン病への応用(Mov Disord 2019, IF8.061)に関する研究を行ってきた。今後、認知症克服を目指す創薬の客観的評価に有用な画像バイオマーカーの確立に有用な成果を得つつある。