受賞報告

<瑞友会賞 学術賞部門>
受賞課題:放射線生物学に基づいた高精度放射線治療・陽子線治療の発展に関する研究

瑞友会賞(学術賞)の受賞挨拶

[更新日:2020年11月25日/掲載日:2020年11月25日]
名古屋市立西部医療センター 陽子線治療科
岩田宏満(いわた ひろみつ)(H17卒)
岩田宏満

この度は大変光栄で栄誉ある瑞友会賞(学術部門)を頂きまして、誠にありがとうございます。瑞友会会長の山本喜通会長をはじめ、御選考いただきました先生方、また、放射線科 芝本雄太教授をはじめとして、これまでたくさんの御指導いただきました先生方に、この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。

テクノロジーの急速な発展による放射線治療機器の進歩に関して、芝本教授の講義やBSL等を経験したことで、感化され、私は在学中より、放射線治療医を目指そうと決意しました。名市大での研修医時代から、放射線治療の研鑽を積む中で、放射線生物学の研究に関してもご指導いただき、放射線治療・生物学の奥深さに触れる毎日でした。当時若手でありましたが、芝本教授のご厚意で、多くの高精度治療器の立ち上げを含め、貴重な経験をさせていただきました。その後、現在の名古屋陽子線治療センターの開院をにらみつつ、兵庫県粒子線医療センターにおいて、陽子線と炭素イオン線の2種類の粒子線治療に従事しました。希少疾患が多く集まり、また、粒子線治療の安全性・強い効果を実感する日々を過ごし、当時はカルチャーショックの連続でした。また多くの他大学・施設の先生方と交流が増えたことや、積極的な学会・論文発表を行ったことで、多くの先生方と共同での研究を行わせていただく機会に恵まれ、現在の自分の研究活動にも繋がりました。

受賞対象となりました研究課題は、“放射線生物学に基づいた高精度放射線治療・陽子線治療の発展に関する研究”であります。近年、放射線治療機器の進歩によって、定位放射線治療や強度変調放射線治療のような高精度照射が可能になりました。従来の通常分割X線治療の臨床データを、これらの高精度寡分割放射線治療に活用するためにLQモデルの妥当性について、生物学的に検討したところ、換算結果と実際の効果の間に乖離が生じることを解明しました。それらの知見を活かし、Novalis、CyberKnifeといった多種多様な治療機器を駆使し、脳・頭頚部・体幹部などの多くの臨床試験を立ち上げ、臨床データを報告しました。また、最先端のスキャニング陽子線照射において、X線治療と比較して様々な細胞効果に違いが表れることなど、X線治療との表現型の差異を明らかにし、これらを活かした臨床試験を多く立ち上げました。名古屋陽子線治療センターも開院7年半を過ぎ、自分の思いなどを存分に反映した様々な前向きプロトコールの、成熟した結果がではじめ、現在多くの論文を投稿中、ならびにアクセプト済みです。

現在は、名市大の高度医療教育研究センターの職も併任させていただき、教育にも従事しながら、名古屋陽子線治療センターにおいて、臨床と研究を続けております。陽子線治療は、現在、世界中で急速に導入施設が拡大し始めており、現時点において、X線が陽子線に置き換わる過渡期と私は考えております。その一躍をになう身として、安全で安心な治療を提供しながら、次の時代へ繋げる治療や研究を行っていきたいと思っております。

最後に改めまして、本研究を支えて頂きました放射線科芝本教授をはじめ、諸先生方、様々な形でご協力いただきました関係スタッフの方に、心から感謝申し上げます。今後とも御指導御鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

略歴
  1. 2005年
    名古屋市立大学医学部卒業
    名古屋市立大学病院研修医(名古屋共立病院)
  2. 2007年
    名古屋市立大学病院放射線科 シニアレジデント
  3. 2008年
    兵庫県立粒子線医療センター放射線科専攻医
  4. 2010年
    名古屋市立大学病院放射線科臨床研究医
  5. 2011年
    名古屋市立大学医学部共同研究教育センター
    中央放射線部助教
  6. 2012年
    名古屋市健康福祉局健康部クオリティライフ21
    城北推進室主査(陽子線がん治療施設事業)
    病院局管理部経営企画室主査(陽子線がん治療に係る連絡調整担当)兼任
  7. 2012年
    名古屋市立西部医療センター名古屋陽子線
    治療センター陽子線治療科副部長
  8. 2020年
    名古屋市立大学大学院医学研究科
    高度医療教育研究センター陽子線治療科准教授併任
岩田宏満氏 授賞理由

顔面の放射線治療において、通常の分割X線治療のデータを高精度寡分割放射線治療に活用するために、linear quadrastic(LQ)モデル換算式を用いた効果判定を可能にした。さらにLQモデル換算において、生物学的要素を考慮してより効果的な治療法を提唱した(Int J Radiat Oncol Biol Phys, 2009 IF 6.2)。この知見を脳・体幹部高精度治療に取り入れて安全で効果的な治療成績を可能にした(J Thorac Oncol, 2013, IF12.5; Neuro-Oncology, 2011, IF 11.9; Cancer, 2010, IF 6.2)。さらに、陽子線治療はX線治療に較べてより効果的であることを証明した(Int J Radiat Oncol Bio Phys, 2016, IF 6.2)。基礎・臨床の両面において将来の展開につながる研究である。

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