受賞報告

<瑞友会賞 学術部門賞>
受賞課題:尿路結石の免疫溶解治療を目指した分子機構の解明と臨床応用

「瑞友会賞・学術部門賞」受賞のご挨拶

[更新日:2019年3月7日/掲載日:2019年3月7日]
名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野
助教 田口和己(たぐち かずき)(H17卒)
田口和己

この度は、第12回名古屋市立大学瑞友会賞(学術部門)という、誠に栄誉のある賞をいただきまして大変身に余る光栄に存じます。山本会長をはじめ瑞友会の諸先生方、これまでご指導賜りました国内外の先生方にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。

私たちの所属する腎・泌尿器科学分野では、マウスモデルを用いた尿路結石症の研究を世界に先駆けて行ってまいりました。その過程において、マウスでは一度形成された腎結石が自然消失していく現象を捉え、そこに免疫細胞であるマクロファージが関わることに着目したことが、私の研究基盤です。

私は平成17年に本学を卒業後、臨床研修を経て大学院に入学し基礎研究を学ぶようになりました。尿路結石症をテーマとして選んだのは、恩師である本学理事長の郡先生・当教室教授の安井先生の影響が大きいところですが、罹患率10%、再発率50%にも上り、世の3大疼痛にも挙げられる疾患に有効な薬物治療が殆どないことに、危機感と興味を覚えたからです。学内外の基礎医学分野の先生方にも助けられながら、平成26年に学位取得後は、より幅広い視点で臨床との繋がりの多い研究を行っている、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のEndourologyに留学し、帰国後もさらなる研究を続けています。

尿路結石症の生涯罹患率は10人に1人に迫っており、相関するメタボリックシンドロームの増加から、さらに増加の一途を辿ることが予想されています。しかしその成因は未だ不明な点が多く、生活指導による尿中無機物質の管理・外科的治療による除去が治療の中心であり、排出や再発予防に有効な薬物治療は確立されていません。本研究は、当教室の先輩方が発見したマクロファージによる結晶貪食機能を、これまでの結石学には存在しなかった概念である「結石の溶解治療」へと発展させる内容です。マクロファージには、炎症に促進的に働くM1型と、抑制的に働くM2型があることが知られています。私たちは、インスリン抵抗性・脂質代謝障害・酸化ストレス亢進によりM1型が増加し、結石形成が助長し、それらの改善によるM2型の誘導により、結石形成が抑制できることを発見しました。さらに尿路結石患者の腎組織では、非結石患者に比べてM2型の関連遺伝子発現が低いことが分かり、そこに炎症性サイトカインやT細胞などのネットワークが関わることを解明しました。これらの結果から、私たちはM2型マクロファージによる「結石の免疫溶解治療」を目指して、iPS細胞を利用した臨床応用への基礎的データの確立を行っています。

改めまして、本賞の受賞にあたり、研究そのものや業務面などにてご指導ご鞭撻を賜りました名古屋市立大学医学研究科の先生方、当教室の先生・スタッフの皆様、留学先や学会活動などにてお世話になりました国内外の研究者の方々に深く御礼申し上げます。これまでの研究活動を糧にし、さらに深みのある内容として当学を代表する研究に発展させていけるよう精進致します。今後とも変わらぬご指導ご鞭撻を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

田口和己氏 授賞理由

尿路結石モデルマウスを確立し、結石形成促進的に働くマクロファージ1型(M1)と抑制的に働くマクロファージ2型(M2)の作用を明らかにした(Sci Rep, 2016, IF 4.25、J Urol, 2015, IF 5.15、Am Soc Nephrol, 2014, IF 8.96等)。さらに、ヒトでインスリン抵抗性、脂質代謝異常、酸化ストレス亢進によってM1優位となり、とくに尿路結石患者ではM2の発現が低下していることを見出した。これによってM2の活性化による結石溶解治療に新しい道を拓いた。

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