受賞報告

<瑞友会賞 臨床部門賞>
受賞課題:遺伝子疾患シトステロール血症(難病指定260)のリポ蛋白アフェレーシスによる治療

「瑞友会賞・臨床部門賞」受賞のご挨拶

[更新日:2019年3月7日/掲載日:2019年3月7日]
医療法人清水会 豊明第二老人保健施設
佐久間長彦(さくま ながひこ)(S45卒)
佐久間長彦

この度、名誉ある瑞友会賞(臨床部門)を受賞させていただき、会員の皆様に心から厚くお礼申し上げます。受賞課題は「遺伝子疾患シトステロール血症のリポ蛋白アフェレーシスによる治療」でしたので、国の指定難病(260)である植物ステロール(多くはシトステロール)の増加するシトステロール血症の概略と患者様の臨床経過をご紹介させていただきたく存じます。

シトステロール血症は、常染色体劣性遺伝形式で遺伝し、文献的に世界中で約100症例の報告があります。シトステロール血症の責任遺伝子は、第2染色体上にあるABCG5/ABCG8の変異です。それぞれの遺伝子産物はsterolin-1ならびにsterolin-2と呼ばれABC輸送体(ATP-binding cassette transporters)の一員として、食事から摂取したステロールを細胞外へ排出する働きをしています。シトステロール血症では、腸管での植物ステロールとコレステロールの吸収促進ならびに胆汁への排泄低下がみられ、血中に増加したステロールが体中に沈着して早発性動脈硬化症や、黄色腫、関節痛などの症状を惹き起こし、臨床症状は家族性高コレステロール血症(FHホモ接合体)と類似しています。

16歳。男性。初診(1996年)。主訴:結節性並びに、腱黄色腫、手根管症候群。診断:患者様の初診当時は、シトステロール血症の遺伝子変異の詳細について未解明の状態でしたが、患者様はABCG5遺伝子の変異(R389H)(ホモ接合体)で発症していることを先駆的に明らかにすることができました(Nature Genetics 2001;27:79-83)。治療:植物ステロール摂取制限、薬物療法としてコレバインや小腸のステロール輸送蛋白NPC1L1の阻害薬(エゼチミブ)の内服治療を実施したが、血中の植物ステロールを十分に低下させることは不可能でした。そのため、患者様は早発性動脈硬化症に罹患し、死亡することが危惧された。患者様には高コレステロール血症はなく、正脂血でしたが、その治療として、血中の植物ステロール除去を目的としてリポ蛋白アフェレーシスによる治療を1997年(患者様17歳)に開始した。継続的なアフェレーシス治療は、結節性ならびに腱黄色腫を退縮させ、手根管症候群や関節痛を治癒させ、全身の粥状動脈硬化罹患の指標である頸動脈エコー画像における内中膜複合体肥厚(粥腫病変)を退縮させた。現在38歳になる患者様はリポ蛋白アフェレーシス治療を継続したことにより冠動脈疾患や脳卒中などに罹患することもなく、日常生活を営んでいる。

結論:同様な症状を有するシトステロール血症患者に対しリポ蛋白アフェレーシス治療が推奨される(Ann Intern Med. 2017; 19; 167(12): 896-899)。

なお、補足ですが、家族歴で発端者のお父様とお姉様には、高コレステロール血症があり、ご両人共にABCG5の変異(R389H)(ヘテロ接合体)にPCSK9 E32K変異によるFHヘテロ接合体を合併した非常に稀なダブルヘテロ接合体でした。

稿を終えるに当たり、長年、小生の診療を受け続けて下さり、多くのことを学ばせてくださいました患者様ならびにご家族の皆様、そして本患者様を診療するに当たり、多大なご助力をして下さいました皆様に、この場をお借りして心から感謝いたします。

佐久間長彦氏 授賞理由

本学に在職中より脂質異常症の研究に取り組み、植物ステロールの一種であるシトステロールの排泄障害による血中・組織への沈着によって若年性冠動脈疾患等の動脈硬化症状を呈する疾患シトステロール血症の原因がABCG5遺伝子変異(R389H)であることを明らかにした(Nature genetic,2011, IF 35.53)、さらに、原因脂質を吸着除去するアフェレーシス(apheresis)療法が有効であることを長年かけて明らかにし(Annals of Internal Medicine, 2017)(IF 17.13)、その治療法を確立した。その粘り強い努力が評価された。

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