受賞報告

<瑞友会賞 社会部門賞>
受賞課題:若年者に対する正しい性教育の普及・啓蒙活動

「瑞友会賞・社会部門」受賞のご挨拶

[更新日:2017年10月12日/掲載日:2017年7月24日]
川村真奈美(かわむら まなみ)
昭和62年 名古屋市立大学医学部卒
三重北医療センター いなべ総合病院 産婦人科
川村真奈美

この度は、名古屋市立大学医学部同窓会「平成29年度瑞友会賞・社会部門」の栄誉を賜り、誠に光栄に存じます。このような身に余る賞をいただき、推薦してくださった水野章先生、ならびに本内容をご評価いただき、選考してくださいました山本喜通会長はじめ諸先生方、同窓会員の皆様方に心より御礼申し上げます。

今回、受賞しました受賞課題「若年者に対する正しい性教育の普及・啓蒙活動」についてご説明いたします。私は名古屋市立大学を卒業後、産科婦人科学教室に入局し、大学病院や関連病院で臨床研修をしました。その後、日常の産婦人科診療の中で、私は、女性自身が自分の体や性に関して非常に無知であることに気付き、性の健康教育の必要性を痛感しました。そこで、平成18年から病院業務以外に一般成人を対象に女性の健康に関する講演を開始し、平成22年からは三重県を中心に東海3県の小中学校・高校へ性教育出張講演に出かけています。平成28年度は年間33回の講演を行いました。

性教育を実践する中で、望まない妊娠の背景に様々な問題(若年妊娠、貧困、虐待、DV、性犯罪)が存在することにも気付きました。望まない妊娠をするのは、女性が性や避妊(特に低用量経口避妊薬)の知識を持っていないためと、背景に男性から女性への性暴力(人権侵害)が存在するためです。望まない妊娠をして、中絶できる時期を過ぎてしまった場合、産婦人科を受診することなく飛び込み分娩をしたり、自宅分娩して新生児を殺害したりすることもあり、非常にハイリスクです。無事に出産したとしても、貧困に陥ったり児童虐待に発展したりする可能性もあり、社会問題になっています。

このような痛ましい事件を防ぐために必要なことは、まず、若年者に対して正しい性教育をすることです。男子にも女子にも、具体的な避妊の方法と、暴力のない対等で良好な関係を築く方法を教えます。性教育は人権教育なのです。

さらに、望まない妊娠をした女性は、誰にも相談できずに孤立していることが多いため、気軽に相談できるツールを作る必要があります。私は三重県の事業である「妊娠SOSダイヤル」の立ち上げにも関わりました。

また、望まない妊娠をして子どもを育てることができない女性を追い込まないために、特別養子縁組という制度を周知することも必要です。社会にこの制度が浸透すれば、その女性は養子に出すという選択をしやすくなるので、安心して医療機関を受診し、妊娠中も適切なケアが受けられ、安全な分娩をすることができます。そして、生まれた子どもも、この制度で養子に出されれば、新しい家庭で実子として大切に養育されるので、普通の子どもと同じように幸せに育っていきます。母児ともに非常にメリットの大きい制度です。私はテレビ局と協力して特別養子縁組に関するドキュメンタリーやドラマの制作にも協力しています。

微力ですが、産婦人科医としてこのような地道な活動を継続し、少しでも望まない妊娠を減らし、虐待・貧困・暴力のない社会が実現されることを願っています。

最後になりましたが、私が社会的活動をすることができたのは、現在勤務しているいなべ総合病院院長の石川雅一先生、上司の金原敏弘先生、同僚の大野逸孝先生のご理解とご協力の賜物であり、非常に感謝しております。改めて、同窓会の諸先生方には感謝と御礼を申し上げます。今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

略歴
  1. 昭和62年
    名古屋市立大学医学部卒業
  2. 昭和62年~63年
    名古屋市立大学病院で臨床研修医
  3. 昭和63年~平成02年
    知多厚生病院
  4. 平成02年~平成06年
    市立四日市病院
  5. 平成06年~平成08年
    名古屋市立大学病院で臨床研究医(学位取得)
  6. 平成08年~平成11年
    星ヶ丘マタニティ病院
  7. 一時休業
  8. 平成13年~平成17年
    菰野厚生病院嘱託医
  9. 平成18年1月~
    いなべ総合病院:産婦人科医長
  10. 平成19年8月~
    いなべ総合病院:産婦人科部長
川村真奈美氏 授賞理由

産婦人科医になってから「望まれない子」をめぐる多くの事例に接し、いなべ総合病院に赴任して以来、女性の身体の生理学教育と学校における正しい性教育の必要性を痛感し、その啓蒙活動を行ってきた。当初、学校で性教育をすることに親と教育委員会等の理解が得られず大変苦労をされた。粘り強い説得の結果、いなべ市教育委員会、ついで各学校にも理解が得られるようになり、現在では小・中・高等学校の男女生徒に保健衛生授業の一環として性教育の講義を開始し、それが 学校教育の一環として恒常化するまでになった。

さらに、女性自らが実行できる避妊法であるピルの普及に力を注ぎ、三重県の事業である妊娠レスキューダイヤル「ココアライン」の立ち上げに関わった。平成22年から三重県産婦人科医会、医療、行政、教育、警察、NPOなどの他機関と連携し、215件の講演にける受講者は延べで2万余名となった。またテレビで性教育のコメンテーター、番組"マザーズ"への特別出演、 新聞紙上にも取り上げられられた。産婦人科医としての業務をこなしつつ、学校における性教育の普及に大いに貢献した。

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