受賞報告
受賞課題:骨芽細胞におけるカテキンはinterleukin-1 (IL-1)によるIL-6産生を促進的に制御している
瑞友会賞を受章して
名古屋市立大学医学部 整形外科・研究員
平成12年 名古屋市立大学医学部卒
この度は名古屋市立大学瑞友会学術部門賞を頂き大変光栄に存じます。瑞友会会長・山本喜通教授を初め御選考頂きました瑞友会の先生方に厚く御礼申し上げます。また、名古屋市立大学整形外科・大塚隆信教授、永谷祐子教授、松井宣夫教授、岐阜大学薬理病態学・小澤修教授を初め多くの先生方に支えられこれまで基礎研究をすることができました。この場をお借りして改めて感謝申し上げます。
私の所属する整形外科学教室は岐阜大学薬理病態学との共同研究においてこれまで一貫して骨代謝における骨芽細胞の増殖分化機能における骨代謝調節因子の細胞内情報伝達機構を明らかにしてきました。緑茶ポリフェノールの主成分として知られる (-)-epogallocatechin gallate (EGCG、カテキン)は人体に様々な効能を有することが知られており、骨代謝においては、EGCGは骨吸収を抑制することが報告されています。一方、interleukin-6 (IL-6)は骨吸収因子として作用し、破骨細胞の分化誘導を刺激することが知られていますが、最近ではIL-6が骨芽細胞による骨形成においても重要な働きを担うことも明らかとなっています。
私共の研究室では既に骨芽細胞様MC3T3-E1細胞においてIL-1がp44/p42 MAP kinase及びp38 MAP kinaseを介してIL-6の産生を促進すること、一方、AMPKを介しNF-κBを活性化し、IL-6の産生を抑制することを報告しています。今回、私は骨芽細胞様MC3T3-E1細胞においてIL-1によるIL-6産生に対するEGCGの影響を検討しました。
EGCGは、IL-1刺激によるIL-6遊離及びIL-6mRNAの発現を増強しました。EGCGはIL-1刺激によるp44/p42 MAP kinase、p38 MAP kinase及びAMPKaのリン酸化に何ら影響を及ぼしませんでした。一方、IL-1によるIκB及びNF-κBのリン酸化はEGCGにより著明に抑制されました。以上の結果より、骨芽細胞においてEGCGはNF-κBを抑制しIL-1刺激によるIL-6の産生を増強し、その作用点はAMPKとIκBの間であることが示唆されました。
緑茶は高齢者の骨量低下や骨折を予防する効能を有することが知られています。これまで骨吸収因子として考えられてきたIL-6は、骨代謝の亢進した状態においては骨代謝調節因子として骨形成を促進することが報告されています。今回の結果から、EGCGが高齢者の骨折予防に資する新たな分子機構が示唆されました。
私は2016年4月より Texas Scottish Rite Hospital for Children (TSRH)への留学の機会を得て、骨壊死マウスモデルを用いた分子レベルでの骨壊死発症機序の解明とそれに基づく治療法の開発を行っています。我が国では小児や成人において股関節の大腿骨頭が腐る、骨壊死という病気が知られていますが、有効な治療法がないため難病指定を受けています。TSRHは全米第1位の小児整形外科の専門病院なので私は小児の大腿骨頭壊死、ペルテス病についての基礎研究を行っています。また、同研究グループは骨壊死患者の関節液検体からIL-6の関与についても報告しています。IL-6は炎症反応の重要な因子でることから、骨壊死発症の分子レベルでの病態解明には炎症との関連性が不可欠であると考えており、これまで扱った炎症の研究経験を役立てることができると考えています。
帰国後は、留学で得られた知見をさらに発展させ、名古屋市立大学医学部の医療の進歩に繋がる臨床及び研究を推進していきたいと思います。今後とも暖かい御高配を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
- 黒柳 元氏 授賞理由
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骨代謝において、IL-6は骨吸収因子として作用して破骨細胞の分化誘導を刺激することが知られているが、最近ではIL-6が骨芽細胞による骨形成においても重要な働きを担うことも明らかとなっている。
黒柳氏は、骨芽細胞様細胞MC3T3-E1 のin vitroの系においてサイトカインIL-1がp44/p42 MAP kinase及びp38 MAP kinaseシグナル伝達経路を介してIL-6の産生を促進すること、一方、AMPKを介しNF-kBを活性化し、IL-6の産生を抑制することを見出し、これに基づき、骨芽細胞様MC3T3-E1細胞においてIL-1によるIL-6産生に対するEGCGの影響を検討した。
EGCGはMC3T3-E1細胞において、IL-1刺激によるIL-6遊離及びIL-6 mRNAの発現を増強した。一方、IL-1によるIkB及びNF-kBのリン酸化はEGCGにより著明に抑制された。以上から、骨芽細胞においてEGCGはNF-kBを抑制しIL-1刺激によるIL-6の産生を増強し、その作用点はAMPKとIkBの間であることが示唆された。今回の結果から、EGCGが高齢者の骨折予防に資する新たな分子機構が示唆された。